近年、心理カウンセリングに興味を持つ高校生やその親御さんたちの間で「公認心理師」と「臨床心理士」という2つの資格が注目されています。どちらも心理的支援に関わる専門資格ではありますが、資格の性質や資格取得の道のりなどに違いがあります。
本記事では、公認心理師と臨床心理士の違いについて、以下5つの観点で比較してみました。心理カウンセラーの道を検討している高校生にとって進路選択の参考になるよう、丁寧に話を進めていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
公認心理師と臨床心理士の違い①【資格の性質】

まず公認心理師は、日本で唯一となる心理職の国家資格で、2017年に制定されました。厚生労働省が主導し、文字通り国によって認定がなされます。
一方、臨床心理士は、日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格です。1988年に制定され、40年近い歴史があります。国家資格ではないものの、心理職の中では非常に信頼性の高い資格とされています。
心理職として国内唯一の国家資格である「公認心理師」に対し、「臨床心理士」は長い歴史を持つ信頼性の高い民間資格である、ということはわかりました。そんな両者について、仕事内容に違いはあるのか、次項で詳しく見ていきましょう。
公認心理師と臨床心理士の違い②【仕事内容】

資格の性質に違いが見られた公認心理師と臨床心理士ですが、仕事内容や役割は共通する部分が少なくありません。それぞれの仕事内容について、詳しく見ていきましょう。
公認心理師の仕事内容
- 心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
- 心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
- 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
- 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
臨床心理士の仕事内容
- 心理アセスメント
問題の状況や課題などを面接や心理検査などによって明らかにし、自己理解や支援に役立てます。 - 心理面接
心理カウンセリング・心理療法といわれるもので、相談に来られる方々の課題に応じてさまざまな臨床心理学的方法を用いて、心理的な問題の克服や困難の軽減にむけて支援します。 - 臨床心理的地域援助
悩みの解決のためには、個人だけではなく、その人を囲む環境への働きかけ情報整理や関係の調整を行ったり、他の専門機関と連携することもあります。 - 調査・研究活動
臨床心理学の知見を確実なものにするための調査・研究活動を行っています。
文言をそのまま引用したため、少々わかりにくいかもしれませんが、両者の仕事内容に大きな違いはないことがわかります。クライエントの心理状態を評価したうえで適切な心理的支援を行う業務プロセス、さらにはクライエントの関係者に対する助言や援助まで行う点についても、共通しています。
現状、就業先においても独占などはなく、公認心理師も臨床心理士も医療・福祉・教育・産業・司法の5領域で働くことができる資格となっています。すなわち、就職先にも違いはないと考えてよいでしょう。
公認心理師は2017年に施行されたばかりの資格だけに、従来から存在する臨床心理士との仕事内容を明確に区別することが現時点では困難な状況です。しかし、修得が義務づけられているのが臨床心理学に限定される臨床心理士に対して、公認心理師は臨床心理学のみならず幅広い心理学の専門知識が求められます。そのため将来的には、「公認心理師の有資格者にしかできないこと」が生まれる可能性があるといわれています。
公認心理師と臨床心理士の違い③【年収】

公認心理師の年収について、厚生労働省による『公認心理師の活動状況等に関する調査』によると、「300万円以上400万円未満」が21.3%で最も多く、「400万円以上500万円未満」が17.7%と続きます。平均年収は400万円前後といえそうです。
臨床心理士の年収については、公的なデータがありませんでしたが、公認心理師と仕事内容が共通することをふまえると、同等程度と考えるのが妥当です。
ただ、公認心理師は国家資格ということもあり、今後さらに市場価値が高まる可能性があります。そのため、待遇面のさらなる向上が期待できるといっても過言ではないでしょう。
公認心理師と臨床心理士の違い④【資格の取り方】

公認心理師と臨床心理士では、資格取得までのプロセスに違いがあります。
「公認心理師養成カリキュラム」に対応している大学で4年間、かつ大学院で2年間、指定されたカリキュラムを修了することで、公認心理師国家試験の受験資格が得られます。
また大学卒業後、指定機関で2年以上の実務経験を積むことでも、受験資格の獲得が可能です。
「臨床心理士養成カリキュラム」に対応している大学院で臨床心理学を学び、修士課程を修了することで、臨床心理士の受験資格が得られます。
◇◇◇
「公認心理師国家試験」の実施は、例年3月初旬。マークシート方式による筆記試験のみで合否が判定されます。「臨床心理士資格審査」は、例年10月~11月にかけて一次試験(筆記)と二次試験(口述面接)が行われます。もちろん、両方の受験資格があれば、どちらも受けることが可能です。
公認心理師と臨床心理士の違い⑤【資格試験の合格率】

ここでは、「公認心理師国家試験」と「臨床心理士資格審査」の合格率を、図表で見ていきましょう。
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023年 | 2,020人 | 1,491人 | 73.8% |
2022年 | 33,296人 | 16,084人 | 48.3% |
2021年 | 21,055人 | 12,329人 | 58.6% |
2020年 | 13,629人 | 7,282人 | 53.4% |
2019年 | 16,949人 | 7,864人 | 46.4% |
2018年 | 36,103人 | 28,574人 | 79.1% |
公認心理師国家試験の第1回開催は、2018年です。開催初年度は、臨床心理士の有資格者が多数受験したことから、合格者数が多くなっています。今後、開催を重ねることで、合格者数や合格率が安定してくると想定されます。
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023年 | 1,705人 | 1,134人 | 66.5% |
2022年 | 1,810人 | 1,173人 | 64.8% |
2021年 | 1,804人 | 1,179人 | 65.4% |
2020年 | 1,789人 | 1,148人 | 64.2% |
2019年 | 2,133人 | 1,337人 | 62.7% |
臨床心理士資格審査の合格率は例年、65%前後で推移しています。一次試験の筆記だけでなく、二次試験として口述面接もあるため、合格するためには両方の対策が必要です。
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いかがでしたか。公認心理師と臨床心理士の違いについて、なんとなく理解いただけたのではないでしょうか。
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ちなみに、この記事を書いた医療創生大学にも心理学部があります。大学院も併設しており、公認心理師と臨床心理士の両方の資格取得に対応したカリキュラム体系になっていることが特徴です。資料請求は、以下よりお気軽にどうぞ。